コンテンツです

[報告] ビワイチRIDEでサイクリングイベント運営者支援システムの実証

2019年03月28日

滋賀県と株式会社JTBの全面的な協力を得て、株式会社フォルテと株式会社価値総合研究所は2019年3月10日、サイクリングイベント「びわ湖一周ロングライド2019(ビワイチRIDE)」において「みちびき」のSLAS(サブメータ級測位補強サービス)を活用した運営者支援システムの実証実験を実施しました。

今年で8回目を迎えたビワイチRIDEは、春のびわ湖畔の景観を眺めながら自転車で爽快に走れるイベントとして全国的に人気があり、近隣はもちろん遠方からも多数のサイクリストが訪れます。関西のアルプスといわれる比良山系や歴史ある街並みが残る近江路の景色を眺めながら、日本一大きな湖であるびわ湖の魅力を存分に味わうことができます。今年は滋賀県長浜市の豊公園をスタート地点として約148kmを走る「ロングライド」、約160kmを走る「センチュリーライド」、コースの途中で自転車を船に積み込んでびわ湖のクルーズを楽しめる「サイクルージング」などさまざまなコースが用意されました。
なお、この実証実験は内閣府 宇宙開発戦略推進事務局と経済産業省が共同で運営する「S-NET(スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク)」活動の一環として実施され、当日は「みちびき」のSLASに対応したGNSSトラッカーを参加者をサポートする先導車、中間バイク、最後尾車、サポートカーなどに装着し、リアルタイムかつ正確に位置情報を把握・可視化することによりイベント運営の効率化・迅速化に取り組みました。

藤井勇治・長浜市長

ゆるキャラの隣りに立つ藤井勇治・長浜市長

スタートの様子

長浜市の豊公園からスタート

サイクリング

びわ湖の景観を眺めながらサイクリング

SLAS対応のGNSSトラッカーを使用

使用したGNSSトラッカーは、フォルテが2019年春に発売予定の新製品「FB2003」と現行機種の「FB201」で、FB2003はLTE回線、FB201は3G回線を使って位置情報をクラウドへ発信し、パソコンやスマートフォン、タブレットのウェブブラウザを使って地図上に表示された位置情報をリアルタイムに確認できます。いずれも「みちびき」のL1S信号に対応しており、誤差1m程度の高精度測位が可能で、車両が道路の右左どちらの端を走っているのかも分かります。
先導車や中間バイク、最後尾車など選手に交じってコースを走る自転車にはFB2003を、サポートカーやサポートバイクなどにはFB201を装着しました。FB2003は合計18台、FB201は合計8台使用しました。位置情報を発信する間隔は、FB2003は5秒に1回で、FB201は20秒に1回です。バッテリー持続時間はFB201が約6時間なのに対して、FB2003は約12時間と長寿命を実現しているため、制限時間が10時間30分(センチュリーライドの場合)と長い今回のイベントでも、途中で充電する必要がなく最後まで使用することができます。
また、FB2003は自律航法(デッドレコニング)機能を搭載しており、GNSSの電波が届かなくなった場合でも、極端に精度を落とさずに位置情報を取得し続けられます。今回のイベントでは、トンネル内の自転車を降りて歩かなければならない区間についても、同機能のおかげで測位が途切れる心配がありませんでした。
FB2003は運営スタッフが搭乗するロードバイクのハンドルバーにゴム製バンドやシリコンケースのクリップを使って装着しました。当日はイベントの後半に雨が降りましたが、FB2003は従来機種よりも防水性が向上したため、水に濡れてもほとんどの製品が無事に機能を維持し続けました。また、FB201はサポートカーの車内のダッシュボードや、サポートバイクの座席下のメットインスペースなどに配置されました。

FB2003

最新機種のFB2003

FB201

FB201

GNSSトラッカー

先導車やサポートカーにGNSSトラッカーを搭載

1,800台がグループ毎に順次スタート

大会当日、日の出前の暗い中、朝5時45分に先頭車両がスタートしました。今大会にエントリーしているのは約1,800台で、安全のため数十台ごとにグループを分けて順次スタートしていきます。大会本部に設置された大型ディスプレイ及びノートパソコンでは、各スタッフの位置がアイコンで地図上に表示されました。アイコンはコースごとに色分けされているので、どのコースの先導車や最後尾車がどの位置にいるのかを一目で確認できます。

大会本部

大会本部。利用実証中の掲示

大会本部

大会本部ではリアルタイムに現場指示

今回の大会では、コース上に4カ所のエイドステーション(補給所)が設けられており、各エイドステーションでも、iPadを使ってサポートスタッフの位置を確認できるようにしました。さらに、地図上にジオフェンス(仮想的な境界線)を、エイドステーションの位置を中心に円形に設定することにより、そのエリアに先導車や最後尾車が近接したり、離れたりする際に、大会関係者へメールが通知されるようにしました。

各車両を色分け表示

各車両をコースごとに色分けして表示

ジオフェンス

エイドステーションにジオフェンスを設定

大会中は、本部に設置されたモニタやノートパソコンを見ながら、運営スタッフが電話でほかのスタッフと連絡し合う様子が頻繁に見られました。「選手が途中リタイアした際に、サポートカーがどの位置にいるのかがひと目で分かるので、リタイアした地点にもっとも近いサポートカーを迅速に手配することができるので、非常に助かっています」という声が本部スタッフから聞かれました。また、先導車やサポートカーを担当したスタッフからは、「(自分が先導コースの中間や最後尾が分かるので)エイドステーションでの留まる時間がすぐに判断できて、とても便利だった」、「サポートカー同士の位置関係がわかるので、コツを掴んでから本部を通さずに自分たちの走る場所を分散させることができた」という声が聞かれ、それぞれの役割でも活用していただきました。

車両ごとの軌跡の履歴

車両ごとの軌跡の履歴も表示可能

走行ライン

道路のどの位置を走行したのかよく分かる

湖上の位置も追跡

サイクルージングコースは湖上の位置も追跡

このほか、競技者を模してSOS信号を発信し、トラブル発生を本部やエイドステーションから確認する実験も行われました。実証実験のスタッフがスタート地点から離れた場所へ移動し、GNSSトラッカーのSOS発信ボタンを押して、パソコンやiPadの管理画面上に警告が表示されるのを確認しました。

SOS表示画面

本部モニタでのSOS表示画面

アンケート実施

終了後にアンケートも実施

イベント終了後は、運営スタッフに対して簡易アンケートが行われました。「チェックポイントへの到達時間の目安が分かり、スタッフの準備や配置に役立った」、「各車両の位置関係が端末を通して一目で分かり、的確な指示ができた」といった好評な意見が多く、今回の実験は本部から的確な指示、スタッフ間の連携や将来的にスタッフの適正配置など、大会運営の効率化に大いに役立つことが確認できました。フォルテと価値総合研究所は今後、このシステムの本格的なビジネス化を目指して実証を重ねていく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

関連記事